自分の感受性くらい

           茨木のり子



ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っていおいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ






大正15年生まれ。
童話作家、エッセイスト、脚本家。
2006年没。


もっとも有名な詩は「わたしが一番きれいだったとき」らしい。
掃除をしていたら、昔買った本が出てきた。
わたしにとってブログはメモ代わりなので、ここにメモしておこうと思う。




わたしが一番きれいだったとき
            茨木のり子


わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空がみえたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
男達は挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように
                   ね
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by yukon-yuko | 2010-02-08 14:23 | 本&音楽&映画
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